Linux/x86_64の割り込み処理 その2:Cからの復帰時の処理
do_IRQ()
ここからCコード
asmlinkage unsigned int do_IRQ(struct pt_regs *regs)
{
unsigned irq = ~regs->orig_rax;
if (unlikely(irq >= NR_IRQS)) {
(panic:略)
}
exit_idle();
irq_enter();
__do_IRQ(irq, regs);
irq_exit();
return 1;
}
3行目は、前回の IRQ0xXX_interrupt の先頭で push $0xXX-256 としている部分と呼応しており、irq に割り込みベクタ番号を取り出します。範囲を外れていれば、panic です。
9行目では、現在実行中のタスクがアイドルタスクであれば、アイドル状態から抜けたわけですので何かをするために exit_idle() を呼んでいるわけですが、EL5 では何もしないようです。
irq_enter() では、add_preempt_count(HARDIRQ_OFFSET); という処理などを行ないます (後述)。irq_exit() では逆に preempt_count を戻し、さらに softirq (後述) があれば、実行します。
カーネルモードでの割り込みの場合
call do_IRQ
ret_from_intr:
cli
decl %gs:pda_irqcount
leaveq
exit_intr:
movq %gs:pda_kernelstack,%rcx
subq (THREAD_SIZE-PDA_STACKOFFSET),%rcx
testl $3,CS-ARGOFFSET(%rsp)
je retint_kernel
(略)
retint_kernel:
cli
restore_args:
(レジスタ復旧)
iretq
コードは common_interrupts の続きです。1行目が Cコードの呼出しで、そこから返ってきたところから説明を続けます。
3行目で割り込みを禁止しています。Cコードで許可している場合があるためです。4行目は、do_IRQ 前に incl した値を戻しています。leaveq で ebp と esp を戻します。
7、8行目が分かりにくいところですが、鍵は struct thread_info の後ろに、そのタスクのカーネルモードスタックがある、というところにあります。PDA の kernelstack には、タスクスイッチ時に新しいタスクの thread_info + THREAD_SIZE-PDA_STACKOFFSET に設定されています。
THREAD_SIZE は 2ページ (8KB)、PDA_STACKOFFSET は 40バイトです。
9行目は、前回の common_interrupt の15行目と同じです。前回 ARGOFFSET は事前に引かれていました。CSレジスタの下位 3bit が 0 ならばカーネルモードでの割り込みだったため、そのまま帰って行きます。
ユーザモードでの割り込みの場合
上記リストで(略)となっている部分です。
je retint_kernel
retint_with_reschedule:
movl $_TIF_WORK_MASK,%edi
retint_check:
movl threadinfo_flags(%rcx),%edx
andl %edi,%edx
jnz retint_careful
retint_swapgs:
cli
swapgs
jmp restore_args
retint_careful:
bt $TIF_NEED_RESCHED,%rdx
jnc retint_signal
sti
pushq %rdi
call schedule
popq %rdi
movq %gs:pda_kernelstack,%rcx
subq (THREAD_SIZE-PDA_STACKOFFSET),%rcx
cli
jmp retint_check
retint_signal:
testl$(_TIF_SIGPENDING|_TIF_NOTIFY_RESUME|_TIF_SINGLESTEP),%edx
jz retint_swapgs
sti
movq $-1,ORIG_RAX(%rsp)
xorl %esi,%esi
movq %rsp,%rdi
call do_notify_resume (regs,0)
cli
movl $_TIF_NEED_RESCHED,%rdi
movq %gs:pda_kernelstack,%rcx
subq (THREAD_SIZE-PDA_STACKOFFSET),%rcx
jmp retint_check
3行目 _TIF_WORK_MASK は、struct thread_info のメンバ flags のビットマスクで、TIF_SYSCALL_TRACE|TIF_SYSCALL_AUDIT|TIF_SINGLESTEP|TIF_SECCOMP です。
これら特殊な状態であるかどうかを6行目で判定し、特殊な状態であれば retint_careful にジャンプして文字通り注意して割り込みから帰る処理をします。
通常の状態であれば、GS レジスタをユーザーモードの値に戻し、他のレジスタも戻して戻ります (restore_args は「カーネルモードでの割り込み」で引用したリストにあります)。
retint_careful では、まず flags の TIF_NEED_RESCHED ビットを見ます。このビットは、タスクスケジューラを呼ぶべきときにセットされますので、1であれば割り込みを許可した上でスケジューラを呼んでいます。schedule() は引数を取りません。ここで他のタスクにコンテキストスイッチがなされる可能性があります。戻ってきたら、_TIF_WORK_MASK のチェックからやり直しです。
タスクスケジューラを呼ぶ必要がなければ、次はシグナルの確認です。これも thread_info の flags に示されているはずです。なお _TIF_NOTIFY_RESUME は EL5 では使われていないと思います。いずれにしても、do_notify_resume() という C のコードを呼んでいます。
第1引数 (%rdi) で、スタックに保存されたレジスタ値へのポインタを、第3引数 (%edx) で thread_info の flags を、それぞれ渡しています。
void do_notify_resume(struct pt_regs *regs, void *unused, __u32 thread_info_flags);
シグナルが配信されていれば、regs の中身を書き換えて、シグナルハンドラを呼び出すようにします。
do_notify_resume() から戻ってきたら、TIF_NEED_RESCHED のチェックからやり直しです。
preempt_count
- Per-threadの変数 (struct thread_infoのメンバ)
- CONFIG_PREEMPT時、0か否かでpreempt可能かどうかを決めている
- 割り込み処理中はpreemptできないため、割り込み中か否かのカウンタを兼ねている
- PDAのirqcountとはup/downのタイミングも異なる
その他トピック
多重割り込み
- 割り込みゲートを用いているため、割り込み直後には割り込み禁止。
– ハンドラが呼ばれる直前に割り込みが許可される。 ⇒ 多重割り込みがあり得る。 – ハンドラにIRQF_DISABLEDというフラグが立てられる。 - irq_desc[]の中にIRQ_INPROGRESSのフラグがある。これがたっているとハンドラは呼ばれない。
– 同一ベクタの割り込みハンドラは多重には呼ばれない。
softirq
- ハードウェアの割り込みの延長の処理。割り込みより優先は低い。
- 割り込み処理の後 (irq_exitの中で) 呼ばれる。
- ただし、softirqハンドラを呼んでるうちにもどんどんsoftirqが発生するなどによりsoftirqの実行が遅れている場合、CPUごとのカーネルスレッドksoftirqdが実行。
– カーネルスレッドで実行されるとはいえ、PDAのirqcountは上げられ、スタックも割り込みスタックが用いられる。
softirqの種類
以下のsoftirqがあります。汎用的には、taskletを用います。
enum
{
HI_SOFTIRQ=0,
TIMER_SOFTIRQ,
NET_TX_SOFTIRQ,
NET_RX_SOFTIRQ,
BLOCK_SOFTIRQ,
BLOCK_IOPOLL_SOFTIRQ,
TASKLET_SOFTIRQ
};