Design Summit

Ryu Network Operating System (2012年4月16日 11:00am – 11:25am)

  • 発表者

    森田 和孝(NTT サイバースペース研究所)、山幡 為佐久(VA Linux)

  • 概要

    『Ryu』 (プロジェクト: http://www.osrg.net/ryu/) は、オープンソースのネットワーク・オペレーティング・システム(NOS)で、Apacheライセンスの元で公開している。

    『Ryu』は、論理的な集中管理の提供および、新たなネットワーク管理や制御アプリケーションを容易に作成可能なAPIの定義を目指している。現在、『Ryu』は、ネットワークデバイスの挙動を修正するためのOpenFlowプロトコルをサポートしている。

    また、OpenStackのRyuプラグインは、OpenStack Essexの仮想ネットワークサービスであるQuantumにマージされている。『Ryu』により、VLANを使用せずに、何万もの分離された仮想ネットワークを作成することが可能となる。

    本プロジェクトは、品質、機能性、使いやすさを備えたコードで、大規模環境での用途に適した高品質なOSSのネットワーク・オペレーティング・システムを開発すること、そして、OpenStackのネットワーク管理コンポーネントの標準になることを目指して開発を進めている。

    今回の発表では、『Ryu』の全体設計と今後の展望の紹介およびデモンストレーションを行う。

OpenStack Conference Spring 2012

今回のConferenceに先立ち、IBM社とRed Hat社がOpenStack FoundationのPlatinumメンバー (3年間で総額150万ドルを拠出)として参加する事がアナウンスされ、前回以上の期待感を持って臨むことになった。今回のConferenceへの参加を通じて得ることができた業界動向および所感を以下にレポートする。

 

 

 

著しい勢いで成長している開発コミュニティ

4月5日にリリースされた最新版「OpenStack 2012.1」(コード名:Essex)では、関与した開発者数が200名 (企業数50社)にも上った(ちなみに、Conferenceに先立って開催されたDesign Summitでは、合計20ヶ国から約1,000名の参加者があったそうだ)。OSSコミュニティとして、引き続き著しい勢いで拡大していることが実際に肌で感じる事ができた。

一方、コミュニティへの参画企業の貢献度においては、コード数およびバグフィックス数のいずれもRackspace社が抜きんでており、その次にNebula社とRedHat社が続いているという状況である。Red Hat社の貢献度が高いという事実は、個人的には意外であったが、なるほど、Red Hat社のOpneStack FoundationへのPlatinumメンバーとしての参加理由も十分に納得できる。

ちなみに、Quantumの開発においては、弊社はCitrix社について世界で6番目の貢献度であった(下図参照)。

 

 

 

Essexでリリースされた主なポイント

最新版であるEssexには、新しく約150の機能が追加され、また、Compute機能、Storage機能およびNetworking機能に跨るインテグレーションの向上が図られた。また、Dashboard機能 (コード名:Horizon) およびIdentity機能 (コード名:Keystone) の初版のリリースもされた。以下がEssexで追加された主な機能である。

  • OpenStack Compute (コード名:Nova)
    • OpenStackの中核モジュール。多数の仮想マシンを制御する。安定化とスケーラビリティの向上が図られた。また、Dashboard、Identityとの連携機能が向上した。
  • OpenStack ObjectStorage (コード名:Swift)
    • オブジェクト保管の期限を設定出来るようになった。また、モバイル環境からObjectStorage上のオブジェクトを直接操作できるようにするための機能も追加された。
  • OpenStack Dashboard (コード名:Horizon)
    • OpenStack管理GUIの最初のフルリリース。管理者やユーザがセルフサービスポータルを通じて、OpenStackクラウド上のリソースに対して、プロビジョン及び自動化出来る様になった。
  • OpenStack Identity (コード名:Keystone)
    • OpenStack共通認証システムの最初のフルリリース。Keystoneの最初のフルリリース。共通認証システムにより、OpenStackの全てのプロジェクトを統合できるようになった。
  • OpenStack Imange Service (コード名:Glance)
    • 仮想マシンイメージ管理モジュール。ユーザビリティ、認証およびイメージ保全といった機能が改善された。
 

エコシステムの形成

今回のConferenceに参加して、最も印象的だったのは、OpenStackを中心としたエコシステムが着実に形成されつつあるということだ。基調講演を行ったNebula社のCEO、Chris C. Kemp氏のプレゼンにもあった通り、IBM社、HP社、Dell社、Cisco社、Citrix社といった世界大手のITベンダー、Red Hat社、Canonical社といったLinuxディストリビュータ、Nicira社、Nebula社といったスタートアップ、Rackspace Hosting社、AT&T社、NTTデータ社といった大手ホスティングベンダー等、大中小と様々なIT企業がOpenStackのプラットフォームを活用したビジネスモデルを本格的に検討、または、既に着手していることである。特に、目を引いたのがスタートアップのプレゼンスである。OpenStackのディストリビュータであるPiston Cloud Computing社やCloudscaling社、ハイブリッドクラウドのソリューションベンダーであるRightScale社やenStratus社、OpenStack SwiftのディストリビュータであるSwiftStack社である。Nicira社やNebula社を筆頭に、米国のベンチャーキャピタルの資金がOpenStackのエコシステムを構成しているスタートアップに流れ始めていることは、非常に注目に値すべき潮流である。プレイヤーの規模やレイヤーの違いはあれども、Google社がandroidを立ち上げた当時と類似する空気を感じた。

 

最後に、エンタープライズ用途での成熟度という観点では、OpenStackは未だ未だ課題が山積みである。 しかし、ユーザ事例は着実に増えており、また、前述のとおり、開発者数および参画企業数が著しく増えているのみならず、エコシステムも着実に拡大していることから、エンタープライズレベルの品質を満たせる日もそう遠くないと考える。

資料をPDFにまとめましたのでこちらからもお読みいただけます。
プレゼン資料『Ryu: Network Operating System』 (PDF:1 MB)
プレゼン資料『L2 isolation by using GRE tunnel』 (PDF:22 KB)